自社株の承継というと、まず「株価をどう下げるか」「税負担をどう抑えるか」という話に関心が向きがちです。しかし贈与で後継者に移るのは、株価という数字だけではありません。株式そのものに含まれる複数の権利が、贈与の瞬間にまとめて動きます。ここでは、贈与で自社株を移す際に整理しておきたい基礎知識を確認します。
株式には「財産権」と「議決権」が含まれる
株式には、大きく分けて二つの性質の権利が含まれています。一つは、配当を受ける権利や会社解散時に残余財産の分配を受ける権利といった、経済的価値に関わる「財産権」です。もう一つは、株主総会で議決権を行使し、会社の意思決定に参加する「議決権」です。
贈与によって株式を移すと、この二つの権利が原則として一括して後継者に移転します。株価(財産的な評価額)だけを見て「承継が進んでいる」と捉えると、実際に誰がどれだけの議決権を持ち、会社の意思決定にどこまで関与できる状態になっているのかという「経営権の実態」を見落としかねません。何株を、誰に、いつ移すかを検討する際は、税負担の計算だけでなく、議決権の分布がどう変わるかをあわせて確認する必要があります。
贈与税は「暦年課税」と「相続時精算課税」のどちらかを選ぶ
個人から株式の贈与を受けた場合、贈与税の計算方法には二つの選択肢があります。
一つは「暦年課税」です。国税庁の説明によれば、1年間(1月1日から12月31日)に受け取った財産の合計額から基礎控除額110万円を差し引いた残額に、10%から55%の段階税率が適用されます。税率区分は、贈与者と受贈者の関係(直系尊属からの贈与かどうか)や受贈者の年齢によって「一般税率」と「特例税率」に分かれます。
もう一つは「相続時精算課税」です。国税庁の説明によれば、この制度には年間110万円の基礎控除(特定贈与者ごと)に加えて、上限2,500万円の特別控除があります。ただし、一度この制度を選択すると、その贈与者からの贈与については以後すべてこの制度が適用され、暦年課税へ戻すことはできません。
毎年少しずつ贈与を重ねるのか、まとまった株数を一度に移すのかによって、どちらの制度が適するかは変わります。制度の選択は後戻りしにくい判断を含むため、税理士に個別の試算を依頼した上で決めることが実務的です。
贈与のタイミングと株価評価の関係
非上場株式の相続税評価額は、決算内容や配当の状況などによって変動しうるものです。贈与税は贈与を行った時点の評価額に対して課税されるため、いつ贈与を実行するかによって税負担の水準は変わり得ます。この評価額の算定には専門的な判断が伴うため、具体的な有利・不利の見極めは税理士に相談しながら進める事柄です。
あわせて留意したいのが、贈与者に相続が発生した場合の取扱いです。国税庁の説明によれば、2026年12月31日までに相続が開始する場合、相続開始前3年以内の贈与財産は相続税の課税価格に加算されます。また2024年1月1日以後の贈与については、相続開始前3年超7年以内の部分について、贈与財産の価額の合計額から総額100万円までは加算対象外とする扱いが設けられています。加算対象となる期間は今後段階的に延びていく制度設計になっており、「早く贈与すればするほど有利」と単純に言い切れない点にも注意が必要です。
次の一歩
贈与による自社株移転は、税負担の計算だけでなく、議決権の分布という経営権の実態、そして贈与を実行するタイミングという複数の要素が絡み合うテーマです。ご自身の会社の状況に照らした具体的な設計は、専門家との個別の相談が欠かせません。
まずは自社の承継準備がどの段階にあるかを確認したい方は承継準備度チェックを、期限のある税制について確認したい方は税制期限特集をご覧ください。個別の状況を踏まえた相談をご希望の方は、無料相談からお問い合わせください。
参考(一次資料)
- No.4408 贈与税の計算と税率(暦年課税)|国税庁 https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/zoyo/4408.htm (2026年8月12日確認)
- No.4103 相続時精算課税の選択|国税庁 https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/sozoku/4103.htm (2026年8月12日確認)
- No.4161 贈与財産の加算と税額控除(暦年課税)|国税庁 https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/sozoku/4161.htm (2026年8月12日確認)