未曾有の危機に、経営者たちが立ち上げた場

新型コロナウイルスの感染拡大による緊急事態宣言が出された直後、私は後継者塾の卒塾生や現役塾生、講師陣に呼びかけて、情報交換のためのLINEグループを立ち上げました。狙いは一つ、誰も経験したことのない危機の中で、経営者として会社をどう守るか、知恵を出し合うことでした。

集まったのは、すでに社長に就いている方から、まだ後継者という立場で経営の一角を担っている方まで、責任ある立場の経営者・後継者たちです。最終的には76名の規模になりました。人数の多さそのものより、参加者一人ひとりが「会社を潰すわけにはいかない」という強い当事者意識を持っていたことが、このグループを機能させた最大の理由だったと思います。

制度情報を届けるだけでは足りない

私たちからは、その時々に発表される融資や補助金・助成金の情報、相談窓口、専門家派遣といった支援策を、簡単な解説を添えて投稿しました。国の制度、自治体の制度、商工会議所など各団体の制度がそれぞれ別々に発信されるため、経営者の側からは「そもそも存在に気づかない」「制度同士の違いが分からない」ということが頻繁に起こります。情報を一箇所に集めて見渡せるようにするだけでも、経営者の意思決定を後押しできることを実感しました。

もっとも、このグループの価値は制度情報の共有だけではありませんでした。むしろ本当に力を持っていたのは、経営者同士が自分の会社で実際にやったことを、惜しみなく見せ合ったことです。感染防止のための事務所内のルール、来客対応、休憩室の使い方の張り紙などを写真で共有し合い、良いと思えばすぐに真似をする。段ボールで机の間を間仕切りした様子を投稿すれば、翌日には別の会社が同じ工夫を取り入れている。お金をかけない、すぐにやる、良いものは徹底的に真似して取り入れる。中小企業の経営者が本来持っている柔軟さとたくましさを、私はこのグループの中に何度も見ました。

若い後継者が示した「経営者としての当事者意識」

とりわけ印象に残っているのは、ある若手後継者が自社のコロナ対応ガイドラインを作成し、写真で共有してくれた場面です。感染者が出た場合に経営者として社内外にどう対応するかまで具体的に定めたその内容に、経験を積んだベテラン経営者たちが驚き、「うちも参考にさせてほしい」という声が次々と上がりました。

年齢も会社の規模も肩書も関係なく、経営にとって良いものは良いと素直に認め、見習うべきところは見習う。そうした真摯さがグループの中にあふれていました。そしてその場面で一番驚いていたのは、もしかしたら投稿した若手後継者自身だったかもしれません。自分の考えが、経験豊富な経営者たちに真剣に受け止められる。後継者にとって、これほど自信につながる経験もないだろうと思います。

決断を下すのが経営者の仕事

コロナ禍は、どの経営者の責任でもありません。補助金や融資などの支援策を使えるのであれば、迷わず活用してよい局面でした。むしろ、使える手立てを検討せずに会社を傾けてしまうことこそ、経営者としての重大な責任問題です。社員のために、状況が悪化するずっと前から生き残る道を考え続けるのが、経営者の仕事だからです。

そして何より、このやり取りを通じて私が再確認したのは、限られた情報しかない中で判断し、決断を下すのが経営者だということです。後から振り返れば正解は見えてきますが、経営の現場では、わからない状態のまま今この瞬間に決めなければならない場面が次々とやってきます。評論家のように様子を見ているだけでは、社員はついてきません。迷いを断ち切り、前に進む決断を下し続けることを、経営者は常に求められています。

事業承継を進める後継者にとっても、これは避けて通れないテーマです。先代から受け継ぐのは、事業だけでなく、こうした「決めて、進む」という経営者としての姿勢そのものなのだと思います。