本シリーズは、事業承継センター常務取締役・東條裕一が、経営者から聞いた言葉と、経営者として伝えたい言葉を書き留めた「勇気をもらう経営者の言葉」を、一言ずつコラムとして再構成したものです。志や覚悟、そして勇気を、後継者のみなさんと分かち合えればと思います。

それは目的なのか、手段なのか。

なぜ、この言葉なのか

私たちは知らず知らずのうちに、手段を目的にすり替えてしまうことがあります。「何をやるのか」よりも「どのようにやるのか」にとらわれてしまう、ありがちな誤りです。

決めたことを守る、マニュアルを守る、IT化を進める。どれも確かに正しいことです。しかし、それらはあくまで手段にすぎません。目的があったからこそ、やり方が決められ、マニュアルが作られたはずです。後継者として会社の仕組みを引き継ぐとき、この順番を忘れないでほしいと思います。

先代がつくった仕組みを、そのまま受け継ぐだけでは、いずれその仕組みが形骸化してしまいます。仕組みの奥にある目的まで受け継いで初めて、後継者は仕組みを自分のものにできるのだと思います。

特に、創業から時間が経ち、仕組みが増えてきた会社ほど、この落とし穴にはまりやすくなります。誰も目的を語れないまま、手段だけが習慣として残り続けてしまうのです。

手段が目的にすり替わるとき、何が起きるか

なぜそのやり方が作られたのかを知ることで、もっと素晴らしい会社にすることができます。逆に、手段そのものが目的化してしまうと、本来の目的から離れていってしまいます。

一つ、印象に残っている例があります。経費節減のためか、蛍光灯を間引きしているお店がありました。店内は暗い雰囲気になり、商品の見栄えも悪くなっていて、もう一度入りたいと思える店舗ではありませんでした。

本来、お店の目的は儲けることであるはずです。経費節減は、そのための手段の一つに過ぎません。しかし、経費節減そのものが目的化してしまうと、こうしたことが起きてしまうのです。手段にとらわれた結果、目的そのものを損なってしまう。これは、どんな会社でも起こりうることだと思います。

同じことは、決めたルールを守ることそのものが目的になっている職場でも起こります。ルールを守ること自体は正しくても、そのルールが何のためにあるのかを誰も説明できなくなったとき、そのルールはむしろ会社の足を引っ張るものに変わってしまいます。

後継者のあなたへ

会社には、先代がつくった様々な決まりごとやマニュアルがあります。それらを引き継ぐとき、「なぜこのやり方なのか」まで理解しているかどうかで、後継者としての判断は大きく変わります。

目的を確認せずに手段だけを引き継いでしまうと、いつか手段が目的からずれていることに気づけなくなります。

今、あなたが会社で当たり前のように守っている決まりごとは、そもそも何のためにつくられたものでしょうか。一度立ち止まって問い直してみてください。

「それは目的なのか、手段なのか」

「手段を目的化していないか」

本記事は、事業承継センター常務取締役・東條裕一の原稿「勇気をもらう経営者の言葉」をもとに構成しています。