本シリーズは、事業承継センター常務取締役・東條裕一が、経営者から聞いた言葉と、経営者として伝えたい言葉を書き留めた「勇気をもらう経営者の言葉」を、一言ずつコラムとして再構成したものです。志や覚悟、そして勇気を、後継者のみなさんと分かち合えればと思います。

衝突したら「同じ思い」までさかのぼれ

なぜ、この言葉なのか

俯瞰するというのは、日々の細かな出来事から少し距離を置いて、全体を見渡すことです。対立が生まれたときほど、この視点が必要になります。

後継者と現経営者は、同じ会社の未来を思いながらも、立場や経験の違いから、意見がぶつかることが少なくありません。目の前の対立だけを見ていると、相手が自分の考えを否定しているようにしか感じられなくなってしまいます。

しかし、俯瞰して見れば、対立の奥には、実はお互いに同じ方向を向いている事実が隠れていることが多いのです。

大切なのは、対立を避けることではなく、対立の奥にあるものを見失わないことです。俯瞰する力とは、目の前の意見の違いだけでなく、相手の立場そのものを一段高いところから見る力でもあります。

ある後継者からの相談

以前、ある後継者から相談を受けたことがあります。自分のやりたいことを、社長にことごとく否定される。もうやめたい。どうすれば良いか、というものでした。

社長にとっては、会社が一番であり、誰よりも会社のことを考えています。そして、その後継者もまた、会社のために、会社の古いやり方を変えようとしていました。つまり二人は、同じように会社を思い、会社を良くしようとしていたのです。

だから私は、そこまで遡ってみることを勧めました。同じ思いを確認して、そこからどこで意見が相違しているのかを考えてみる。そうすれば、きっと理解しあえるはずだと。

同じ目的をもって、お互いに必死に考えている。だからこそ、どこかで違いが出たとき、思いが強い分、大きくぶつかってしまいます。しかし、その根っこにある思いが共有できれば、きっと分かり合えます。相手の立場でものを見ることができるようになるのです。

後継者からすれば、社長に否定されることは、自分自身を否定されているように感じてしまうものです。しかし、社長の側から見れば、それは会社を思うがゆえの真剣さの表れであることが少なくありません。この見え方の違いこそが、多くの対立の正体なのだと思います。

「同じ思い」に立ち返った後継者

その後継者は、社長の思いもわかり、自分の思いもぶつけました。すると社長からは、「じゃあ任せるから好きなようにやってみろ」という言葉が返ってきたそうです。

社長と後継者は、敵ではありません。むしろ、一番信頼しあえる味方です。だからこそ、本気でぶつかることもあります。同じ思いとわかれば、必ず分かり合えるのです。

対立そのものを恐れる必要はありません。思いの強さがあるからこそ、ぶつかることができる。そう捉え直すだけで、対立に向き合う気持ちは少し軽くなるのではないでしょうか。ぶつかることを避けて表面的な同意だけを重ねていては、いつまでも本音の対話にはたどり着けません。むしろ、遠慮なくぶつかり合える関係のほうが、後々の信頼につながっていくものです。

大切なのは、ぶつかった後にどこへ戻るかです。相手の言い分の細部にこだわり続ければ、対立は深まるばかりです。しかし、「同じ思い」という共通の土台にまで戻ることができれば、そこから先の会話はまったく違うものになります。

後継者のあなたへ

社長との意見の食い違いに直面したとき、つい「否定された」という感情だけが残ってしまうことがあります。しかし、一歩引いて俯瞰してみれば、その奥には「会社を良くしたい」という同じ思いがあるはずです。

衝突したときこそ、感情のぶつかり合いで終わらせず、「同じ思い」までさかのぼってみてください。相手が何にこだわっているのかではなく、相手が何を大切にしているのかに、意識を向けてみるのです。

同じ思いにさかのぼることができれば、対立は敵対ではなく、より良い答えを探すための対話に変わります。それは、後継者と現経営者の関係だけでなく、あなたがこれから部下やパートナー、そして取引先と向き合うときにも、同じように役立つ視点だと思います。

今、あなたが社長とぶつかっている本当の理由は、どこにありますか。

本記事は、事業承継センター常務取締役・東條裕一の原稿「勇気をもらう経営者の言葉」をもとに構成しています。