本シリーズは、事業承継センター取締役・東條裕一が、経営者から聞いた言葉と、経営者として伝えたい言葉を書き留めた「勇気をもらう経営者の言葉」を、一言ずつコラムとして再構成したものです。志や覚悟、そして勇気を、後継者のみなさんと分かち合えればと思います。
マニュアルは、マニュアルでできないことに時間を使うためにある
なぜ、この言葉なのか
マニュアルは、皆が同じようにできるようにするためのツールです。間違いを少なくし、サービスのレベルのばらつきをなくし、一定以上の仕事の質を担保するためのもの。それだけのものです。
多くの会社が、業務の標準化のためにマニュアルづくりに力を注いでいます。それ自体は大切な取り組みです。しかし、その先にある本来の目的が、いつの間にか見失われてしまうことがあります。
マニュアルをつくって満足していないか
マニュアルの目的は、仕事をマニュアルどおりにさせることではありません。標準化できる仕事をマニュアルに任せ、価値の高い仕事に、より多くの時間を使えるようにすることです。
定型的な仕事は、誰がやっても一定の水準でできるようにする。一方で、お客様一人ひとりに合わせた対応、新しい企画や商品の検討、仕事の改善などは、マニュアルだけではできません。こうした付加価値の高い仕事に、人の時間と知恵を振り向ける。そのためにマニュアルがあります。
ところが、マニュアルをつくること自体が目的になってしまうことがあります。時間をかけて業務を整理し、立派なマニュアルが完成すると、それだけで大きな仕事を成し遂げたような気持ちになります。そして今度は、「マニュアルを守らせること」に力を注ぐようになります。
しかし、マニュアルはあくまで手段です。守ることばかりを求めれば、社員は「もっと良いやり方はないか」と考えるより、「マニュアルから外れていないか」を気にするようになります。それでは、仕事を標準化したはずが、逆に社員の創意工夫を奪うことにもなりかねません。
マニュアルが担うのは、仕事の一定水準を保証するところまでです。そこから先に何をするかは、人の仕事です。マニュアルによって土台を固め、その上にどれだけ付加価値の高い仕事を積み上げられるか。そこに経営者や社員の力を使うべきなのです。
生まれた時間を、どこに使うか
もう一つ大切なのは、マニュアルによって生まれた時間をどう使うかです。
仕事を標準化し、判断に迷う時間や作業のムダが減れば、社員には時間の余裕が生まれます。しかし、その時間を放っておけば、いつの間にか別のルーチンワークで埋まってしまいます。それでは、せっかくマニュアルを整備した意味がありません。
だから経営者は、マニュアルをつくる段階から、「これによって生まれた時間を、何に使ってほしいのか」を考えておく必要があります。
お客様と話す時間を増やすのか。一人ひとりに合わせた提案を考えるのか。新しい商品やサービスを企画するのか。現場の改善に取り組むのか。あるいは、次の仕事を生み出すために使うのか。
マニュアル化によって生産性を高めるというのは、単に仕事を早く終わらせることではありません。人がやらなくてもよい仕事に使っていた時間を減らし、人にしかできない仕事に時間を移すことです。
マニュアルを増やすことが目的なのではありません。マニュアルによって、人の時間の使い方を変えることが目的なのです。
後継者のあなたへ
自社のマニュアルを、一度違った視点から見直してみてください。
「何が書かれているか」「社員が守っているか」だけではなく、「このマニュアルによって、社員は何を考えなくてよくなったのか。そして、その分、何を考えるようになったのか」という視点です。
マニュアルが完成したところがゴールではありません。むしろ、そこからが経営者の仕事です。
標準化によって生まれた時間を、お客様への対応、新しい企画、改善、提案といった付加価値の高い仕事へ振り向ける。その仕組みまでつくって、初めてマニュアルは経営の道具になります。
あなたの会社のマニュアルは、社員をマニュアルどおりに動かすためのものでしょうか。 それとも、社員が「価値の高い仕事」にもっと時間を使うためのものでしょうか。