複数の会社をまとめて引き受け、一つのグループとして承継していく方法は、実際にあります。「中小企業のグループ化」「連続的M&A」「ロールアップ」などと呼ばれる手法です。ただし、結論を先に申し上げます。「三つの弱い会社を集めれば一つの強い会社になる」のではありません。統合によって、それぞれの会社の強みを生かし、利益、管理、返済力を本当に高められるかどうか。金融機関の融資判断では、この一点が問われます。グループ化を検討する際も、まずここから考えるべきだというのが私たちの見方です。
本コラムでは、グループ化とはどのような承継の形か、何が期待でき、どこでつまずきやすいのか、そして「グループ化すれば融資を受けやすくなるのか」という資金調達の論点まで、あわせて整理します。
一社に合併しなくても、グループとして承継できます
グループ化と聞くと、複数の会社を一つの会社に合併してしまうイメージを持たれるかもしれません。しかし、会社を完全に一社へ合併せず、持株会社などの下で、それぞれの会社名や強みを残したままグループ化する方法もあります。各社は長年使ってきた名前と得意分野をそのまま持ち続け、資本の面で一つのグループにまとまる、という形です。
また、一度のM&Aで終わらせるのではなく、複数回のM&Aを重ねてグループを育てていく進め方もあります。こうした進め方も含めて、「中小企業のグループ化」「連続的M&A」「ロールアップ」などと呼ばれています。
2024年版中小企業白書が紹介する「7社のグループ」の実例
実例もあります。中小企業白書では、長野テクトロングループが、2024年版白書の掲載時点で傘下のグループ企業7社を擁し、各社の得意分野を生かしながら、営業、管理、技術などを共有して成長した事例が紹介されています。
注目したいのは「各社の得意分野を生かしながら」という点です。全社を一色に塗り替えるのではなく、それぞれの強みを残したまま、営業・管理・技術といった機能を共有するという発想が表れた事例です。
グループ化に期待される六つの効果
グループ化に期待される効果は、次のとおりです。
- 経理、人事、ITなどを共同化する
- 複数社で採用や人材育成を行う
- 顧客や販売網を共有する
- 技術や設備を融通する
- 一社では難しい投資を行う
- 後継者不在の会社の雇用や技術を残す
六つに共通するのは、「一社だけでは持ちきれない機能や規模を、グループで分かち合う」という発想です。経理・人事・ITの共同化や、採用・人材育成の共同実施は各社の負担を軽くすることが期待でき、顧客・販売網の共有や技術・設備の融通は各社の強みを掛け合わせることにつながり得ます。その積み重ねの上で、一社では難しかった投資にも踏み出せる可能性が生まれます。
最後の「後継者不在の会社の雇用や技術を残す」は、事業承継の観点から特に重要です。単独では後継者が見つからなかった会社にとって、グループは、その会社が持つ技術や取引先との信頼といった「目に見えない資産」と雇用を、次代へつなぐ受け皿になり得ます。
ただし、集めるだけでは問題は解決しません
一方で、注意点もはっきりしています。赤字企業をただ集めただけでは、問題は解決しません。むしろ、会社が増えるほど、経営人材、資金、内部管理、企業文化の調整が必要になります。一社の経営でも難しいこれらのテーマを、複数社分、同時に扱うことになるからです。
M&Aは契約がゴールではなく、その後に「PMI」と呼ばれる統合の作業が続きます。中小企業庁も、複数回のM&Aと、その後の統合作業を成長につなげるための調査・支援を進めています。それだけ、買収後の統合作業が重視されているということです。
融資は「会社が大きくなったから」では受けやすくなりません
グループ化を検討するとき、あわせて考えたいのが資金調達です。グループ化すれば融資を受けやすくなるのか――可能性はあります。ただし、「会社が大きくなったから」という理由だけで融資を受けやすくなるわけではありません。
金融機関が重視するのは、会社の大きさそのものよりも、次の二点です。
- 将来、事業からどれだけ安定した現金を生み、返済できるか
- 統合計画を実行できる経営体制があるか
この二点に照らして、統合によって、
- 売上先が分散する
- 安定した利益と現金収入が増える
- 管理部門や会計が整う
- 人材や設備を有効活用できる
- 将来の事業計画が明確になる
のであれば、金融機関からの評価が高まる可能性があります。いずれも、「安定して返済できるか」「計画を実行できる体制があるか」という問いを裏づける材料になるからです。
反対に、買収のための借金が増えたり、帳簿に表れていなかった債務を抱えたり、統合後に従業員や顧客が離れたりすれば、かえって融資が難しくなることもあります。グループ化は融資にとって常にプラスに働くわけではなく、進め方次第でマイナスにもなり得るのです。
日本政策金融公庫にも対象となる融資制度があります
日本政策金融公庫にも、事業の承継や集約、M&A、その後の統合作業などを対象とする融資制度があります。ただし、当然に融資されるものではなく、事業計画などを基に審査されます。「制度があるから借りられる」のではなく、事業計画で返済力と実行体制を示せるかどうかが、ここでも問われます。
結論――「三つの弱い会社」を集めても「一つの強い会社」にはなりません
結論を繰り返します。「三つの弱い会社を集めれば一つの強い会社になる」のではありません。統合によって、それぞれの会社の強みを生かし、利益、管理、返済力を本当に高められる場合に、はじめて融資を受けやすくなる可能性が生まれます。
グループ化は、後継者不在の会社の雇用や技術を残しながら、一社ではできなかった投資や成長に挑むための、有力な承継の選択肢です。同時に、会社が増えるほど、経営人材・資金・内部管理・企業文化の調整という負荷も増えていきます。「何のためにまとめるのか」「統合で何を高めるのか」を先に描けているか。それがグループ化の出発点であり、金融機関への説明の出発点でもあります。
グループでの承継やその資金調達をご検討の際は、私たち事業承継センターの事業承継士にお気軽にご相談ください。お問い合わせはこちらから承ります。
一次資料
- 中小企業庁「2024年版 中小企業白書」 https://www.chusho.meti.go.jp/pamflet/hakusyo/2024/chusho/b2_3_2.html
最終確認日: 2026年8月15日