本シリーズは、事業承継センター取締役・東條裕一が、経営者から聞いた言葉と、経営者として伝えたい言葉を書き留めた「勇気をもらう経営者の言葉」を、一言ずつコラムとして再構成したものです。志や覚悟、そして勇気を、後継者のみなさんと分かち合えればと思います。

組織を大きくする理由は、若い人が隣のしょぼくれたおっさんにならないためである

なぜ、この言葉なのか

会社は、大きければよいというものではありません。10人の会社が100人の会社より劣っているわけでもありません。どのくらいの規模を目指すのかは、経営者がどんな会社をつくりたいのかによって決まるもので、そこに正解も不正解もないと私は思っています。

無理に規模を拡大した結果、顧客へのサービスが悪くなったり、経営のリスクが大きくなったりするのであれば、今の規模を守るという選択も立派な経営です。

それでも、会社を大きくすることに一つだけ明確な意味があるとすれば、若手に「登っていく場所」をつくることだと私は考えています。

若手は、目の前の先輩に自分の将来を見る

小さな組織では、どうしてもポストが限られます。社長がいて、その下に数人のベテラン社員がいる。組織が変わらなければ、10年経っても20年経っても、基本的な構造はそれほど変わりません。

そこで働く若手は、会社が示す経営計画だけを見て、自分の将来を考えているわけではありません。

目の前にいる先輩社員を見ています。

20年、30年働いた先に、どんな仕事をしているのか。どんな責任を任され、どんな待遇を受け、どんな表情で働いているのか。それを見ながら、「この会社にいたら、自分もいつかこうなるんだな」と、自分の未来を重ね合わせています。

そのとき目の前にいるのが、何十年働いても役割が変わらず、仕事への張りもなく、しょぼくれてしまったベテラン社員だったらどうでしょう。

若手には、その人が「20年後の自分」に見えてしまいます。

「頑張っても、その先がこれなのか」と思えば、もっと頑張ろう、難しい仕事に挑戦しよう、この会社で成長しようという気持ちが薄れてしまうのは当然です。

「登っていくポスト」をつくる

だから、若手のモチベーションを考えるうえで大切なのは、今の仕事を楽しくすることだけではありません。

「この会社で頑張れば、その先に何があるのか」を見せることです。

主任になれる。課長になれる。部長になれる。新しい事業の責任者を任される。部下を持ち、自分の考えで仕事を動かせるようになる。責任が大きくなれば、それに伴って報酬も上がっていく。

そうした「登っていく先」が見えるからこそ、若手は今の仕事を頑張ることができます。

しかし、組織がずっと同じ大きさであれば、新しい部署も役職もなかなか生まれません。上のポストが空くのを何年も待つだけでは、若手に将来への期待を持たせることは難しいでしょう。

だから、事業を伸ばし、組織を大きくし、新しい仕事をつくる。それによって、新しい部署や役割、責任者のポストを生み出していく。

売上を大きくすることだけが、会社を大きくする意味ではありません。若い社員が上を目指せる「階段」を増やすことも、会社を成長させる大切な意味なのです。

経営者がつくるべきもの

若手に「もっと頑張れ」「挑戦しろ」と言うだけでは、なかなか人は動きません。

頑張った先に何があるのか。その姿を示す必要があります。

もちろん、全員を管理職にする必要はありません。専門職として腕を磨く道、新しい事業を任される道、後輩を育てる道など、成長の形はいくつあってもよいと思います。

大切なのは、今と同じ仕事を20年、30年続ける未来しか見えない組織にしないことです。

若手のモチベーションとは、目先の給与や褒め方だけでつくられるものではありません。「この会社には、自分が登っていく場所がある」と思えること。その期待が、挑戦する気持ちや、今の仕事を頑張る力につながります。

後継者のあなたへ

会社を大きくすること自体を、経営の目的にする必要はありません。どのくらいの規模を目指すのかは、経営者であるあなたが決めればよいことです。

しかし、今の組織をそのまま続けたとき、若手から自分の将来がどう見えているのかは、考えてみてください。

若手は、あなたが語る立派な将来像よりも、目の前で働いている先輩社員を見て、自分の未来を想像しているかもしれません。

「20年頑張った先には、こんな仕事ができる」 「ここまで登っていける」 「自分にも、こんな役割を任せてもらえる」

そんな未来を見せることができるでしょうか。

会社を大きくすることに唯一正解があるとすれば、若手が、目の前のしょぼくれたおっさんに、自分の将来を重ねなくてもよい組織をつくること。

若手が「この会社でもっと上を目指したい」と思える場所をつくることも、経営者の大切な仕事なのです。

本記事は、事業承継センター取締役・東條裕一の原稿「勇気をもらう経営者の言葉」をもとに構成しています。