本シリーズは、事業承継センター取締役・東條裕一が、経営者から聞いた言葉と、経営者として伝えたい言葉を書き留めた「勇気をもらう経営者の言葉」を、一言ずつコラムとして再構成したものです。志や覚悟、そして勇気を、後継者のみなさんと分かち合えればと思います。

後継者は現場代表ではない。社長の代弁者だ。

なぜ、この言葉なのか

後継者は、社長になる前から経営者としての立場を身につけていかなければなりません。ところが、社員との距離が近い後継者ほど、現場の良き理解者になろうとするあまり、いつの間にか社員の代弁者になってしまうことがあります。 社員の不満を聞き、愚痴に付き合い、ときには一緒になって社長や会社の方針に文句を言う。社員からは親しみを持たれるかもしれませんが、それでは経営者としての役割を果たしているとは言えません。後継者は、現場代表ではありません。社長の代弁者であり、経営を担う側の人間なのです。

後継者は、社員のガス抜き役ではない

社員の話を聞くことは大切です。現場で何が起きているのか、社員が何に困り、何を不満に感じているのかを知ることも、経営者に必要な仕事です。しかし、話を聞くことと、社員の言い分をそのまま代弁することは違います。 例えば、社員から「社長は現場のことを何もわかっていない」と言われたとき、「そうだよな、社長はわかっていないよな」と同調するのは簡単です。その場では社員との距離が縮まり、頼れる存在になったような気にもなるでしょう。しかし、それでは単なるガス抜き役です。 後継者がすべきことは、その不満の背景を理解したうえで、なぜ会社はその方針を取っているのか、何を目指しているのかを自分の言葉で伝えることです。そして、現場に問題があるのであれば、経営の立場から改善に取り組むことです。社員の不満を受け止めることは必要です。しかし、不満に同調することが後継者の仕事ではありません。

社長の意思を、自分の言葉で伝える

後継者は、社長の考えを理解し、会社が目指す方向を社員に伝え、そこに向かって組織を動かしていく役割を担っています。もちろん、社長の言うことを何でも無条件に肯定するという意味ではありません。経営方針に疑問があれば、社長と正面から議論すればよいのです。現場の声を踏まえて、方針の修正を提案することも必要でしょう。

しかし、いったん会社として方向を決めたのであれば、今度はその実現に責任を持つ。それが経営を担う者の立場です。社員に嫌われたくないからと、社長と社員の間で都合よく立場を変えていては、経営者としての信頼は得られません。社員に目的や目標を理解させ、考えさせ、行動を促す。ときには厳しいことも言わなければなりません。後継者に求められるのは、社員から好かれることではなく、社員を会社の目指す方向へ導くことなのです。

後継者のあなたへ

今はまだ社長ではなくても、あなたは将来、会社の経営を引き受ける立場にあります。社員の相談相手になることは構いません。しかし、社員と一緒になって会社への不満を口にしているうちは、いつまでたっても経営者にはなれません。 社員の気持ちを理解しながらも、判断の軸は常に経営の側に置く。社長の考えを理解し、自分の言葉で社員に伝え、会社の目標に向かって人を動かす。その積み重ねが、後継者を経営者へと育てていくのだと思います。社員のガス抜き役で終わってはいけません。社員の不満を、会社を前に進める力に変える。それが後継者の仕事です。

あなたは、社員から「自分たちの味方」だと思われたいのでしょうか。それとも、「この人についていけば、会社は良くなる」と思われる経営者になりたいのでしょうか。

本記事は、事業承継センター取締役・東條裕一の原稿「勇気をもらう経営者の言葉」をもとに構成しています。