何が起きたか

2026年9月16日、国税庁「取引相場のない株式の評価に関する有識者会議」の第6回会合の配布資料が、同庁ウェブサイトで公開されました。同日時点で議事要旨は「作成中」であり未公表です。

第5回会合(2026年8月20日開催)では、非上場株式(取引相場のない株式)の評価方式を「残余利益方式」中心に見直す方向性が示されていました(前回記事参照)。今回の第6回資料は、その残余利益方式を実際にどう計算するかという具体案(算定期間、基準とする帳簿、加算・控除の細目等)と、残余利益方式ではなく純資産価額方式で評価すべき「特定の評価会社」の類型案を示しています。いずれも「〜としてはどうか」という問いかけの形で示された検討中の内容であり、税制改正や財産評価基本通達の改正が決定した事実ではありません。 本記事は資料に明記されている内容のみを根拠にしています。

残余利益方式の計算方法(案)

資料は、残余利益方式の計算方法について8つの検討事項を挙げています。主なものは次のとおりです。

  • 基準とする帳簿:中小企業が会社法上の計算書類を作成する際に用いる会計基準は「法人税法」「中小会計要領」「中小会計指針」「企業会計基準」のいずれかで、企業ごとに異なります。資料は、企業間の会計処理の違いによって評価額に差が生じることを避けるため、すべての企業が一定の基準で作成する「法人税申告書」(法人税法上の帳簿)をベースに株価を算定することとしてはどうか、との方向性を示しています。
  • 利益の算定期間:将来の超過収益(残余利益)を見積もる期間について、上場企業等の中期経営計画が3〜5年とされていることを参考に「5年程度」とし、課税時期前5年間の法人の正常利益から算出することとしてはどうか、との案が示されています。
  • TV(ターミナルバリュー):理論上は6年目以降の残余利益の割引現在価値も加算する必要がありますが、算定が困難であることと、残余利益は年数とともに逓減し0に近づくと考えられることを踏まえ、過小評価の可能性はあるものの安全性を考慮して加算しないこととしてはどうか、との方向性が示されています。
  • このほか、含み損のある資産の減損処理、オペレーティングリース取引や過大な役員報酬・一時的な役員退職金による利益操作への対応、完全支配関係にある子会社株式の評価反映、従業員持株会株式の固定価格評価、純資産価額方式による評価上限(頭打ち)の存廃についても、それぞれ検討事項として整理されています。

試算結果:会社規模による評価額の変動

資料には、令和2年分から5年分の相続税・贈与税の申告データ(取引相場のない株式を含む申告のうち、無作為抽出した1,378社)を用いて、残余利益方式(加算期間5年、還元率8%の仮定)で評価額を試算した結果が示されています。

  • 大会社(128社、ROE中央値3.9%):現行の申告評価額と比べ、しんしゃく率0.7で+50.3%、しんしゃく率1.0で+114.7%と、評価額が大きく上昇する試算結果が示されています。
  • 小会社(430社、ROE中央値0.6%):現行比で、しんしゃく率0.7で▲31.6%、しんしゃく率1.0で▲1.9%と、評価額が下がる試算結果が示されています。
  • 現行の申告評価額以下となる会社の割合は、大会社が16.4%〜28.1%(しんしゃく率1.0〜0.7)にとどまる一方、小会社は50.7%〜78.4%に達するとされています。

資料はこの結果について、「現行制度は規模の大きな企業ほど相対的に評価額が安く評価される体系であり、残余利益方式への見直しにより規模間の相対的不公平が一定程度解消される」との考え方を示しています。

純資産価額方式で評価する「特定の評価会社」(案)

資料は、残余利益方式によらず純資産価額方式で評価することが相当と認められる会社を「特定の評価会社」として整理し、次の4類型を挙げています。

  1. 株式の価値の大半を保有資産の価値が占める会社(資産管理会社):円滑化省令に定める「特定資産」(有価証券、自ら使用していない不動産、ゴルフ会員権、現金・預貯金等、絵画・貴金属等)の帳簿価額が総資産の70%以上、またはこれらの運用収入が総収入の75%以上を占める会社を想定。判定は時価ではなく帳簿価額ベースで行うことで事務負担を軽減する方向性が示されています。
  2. 残余利益方式での評価が技術上困難な会社:組織再編直後の会社、開業後5年未満の会社(将来予測に必要な過去の実績値が確認できないため)
  3. 継続企業の前提に疑義がある会社:休業中の会社
  4. 継続企業の前提を欠いている会社:清算中の会社(清算分配見込額により評価)

今、何を確認すべきか

資料に示されているのはいずれも検討中の方向性であり、決定事項ではありません。 適用時期や税制改正・財産評価基本通達の改正スケジュールについて、本資料には記載がありません。また第6回の議事要旨は本記事執筆時点(2026年9月16日)で未公表のため、会合で実際にどのような議論があったかは本資料のみでは分かりません。

資料の末尾には、次回会合で議論する想定論点として「④ 還元率」(還元率の算出方法、一律とすることの是非、上場・非上場の差の考慮等)が挙げられています。現行の財産評価基本通達(類似業種比準方式・純資産価額方式・配当還元方式)は、本記事時点で変更されていません。自社株の評価や事業承継税制の適用を検討している方は、現時点で慌てて対応を変える必要はありませんが、とくに会社規模が大きい企業や、含み損のある資産・子会社株式・従業員持株会を有する企業は、今回示された試算結果を踏まえると将来的な評価額の変動幅が大きくなり得るため、議事要旨の公表や国税庁からの正式発表を顧問税理士とともに継続して注視することをお勧めします。

出典