何が起きたか

2026年9月11日、国税庁「取引相場のない株式の評価に関する有識者会議」第5回会合(2026年8月20日開催)の議事要旨が、同庁ウェブサイトで公表されました。第5回の配布資料は8月20日時点ですでに公開されていましたが(前回記事参照)、議事要旨は「作成中」として当時は未公表でした。今回公表された議事要旨により、配布資料だけでは分からなかった委員間の具体的な議論の内容が明らかになっています。

この議事要旨が示すのはあくまで会合での議論の記録であり、税制改正や財産評価基本通達の改正が決定した事実ではありません。 本記事は議事要旨に明記されている内容のみを根拠にしています。

委員から出された異論・懸念

第5回では、阿部委員・玉越委員の連名による意見書の説明が冒頭に行われ、国税庁が検討する新方式(残余利益方式による評価の一本化)に対して、複数の懸念が示されました。

  • 商工会議所が国税庁案の残余利益方式で一定の仮定のもと試算したところ、特に一定規模以上の中小企業について、評価額が現行の類似業種比準方式を使った場合と比べて2倍から5倍近くに達し、相続税負担も大幅に上昇することが想定されるとの指摘がありました。
  • 評価額が収益力に直接連動する新方式は、承継が近い経営者に「あえて事業を成長させない方がよい」という誘因を与えかねないとの懸念も示されました。
  • 租税回避スキームへの対応が必要という点では意見が一致するとしつつ、「評価体系全体の見直し」にまで踏み込む必要があるかどうかには疑問が呈されました。

これに対し国税庁側(事務局)は、現行の評価体系が平成18年以降の企業経営環境の変化に対応できていないことが問題の根源であり、部分的な見直しでは対処できないとの認識を説明しています。

各委員の意見が分かれた論点

議事要旨では、出席した12名の委員から出た意見が論点ごとに整理されています。主なものは次のとおりです。

  • 評価方式の一本化そのものについては、会計検査院が指摘した会社規模別の評価額の乖離を理由に賛成する意見が複数あった一方、「理論的根拠や実証的裏付け、シミュレーションが示されないまま残余利益方式一本に絞って検討することが正しい議論なのか」という異論も出ました。
  • 残余利益方式で用いる利益の算定期間(国税庁案は5年)について、委員からは「5年よりも先の予測は困難」「高いROEは平均的に5年程度しか続かないとの研究がある」といった説明的な意見が出た一方、「本来は無限期間の超過利益を積算するモデルであり、5年に区切ることの妥当性は要検討」との指摘もありました。
  • グループ会社(ホールディングス形態等)の評価については、複数の委員が「連結ベースまたは持分法で評価すべき」との考えを示しました。
  • 役員報酬の加算処理(利益の恣意的操作への対応として役員報酬の一部を加算する案)については、「法人税法上すでに過大な部分は損金不算入で調整済み」「スーパー経営者の退任後は報酬も消えるため加算は不合理」として反対する意見と、「一定のルールに基づく加算の仕組みが必要」とする意見の両方が出ました。
  • 議事要旨の作成方法についても座長から言及があり、同一委員の複数回の発言を1つの発言としてまとめて記載する方針が示されました。

今、何を確認すべきか

議事要旨に示されているのは委員間の議論であり、見直しの結論や適用時期は本記事執筆時点で示されていません。 財産評価基本通達(類似業種比準方式・純資産価額方式・配当還元方式)は現時点で変更されていません。

議事要旨には、次回(第6回)の有識者会議が2026年9月16日(水)15時から開催される旨が事務局から案内されたことが記載されています。第6回では今回出された還元率・グループ評価・役員報酬加算等の各論が議論される見込みです。自社株評価や事業承継の準備を進めている経営者・専門家は、現時点で対応を変える必要はありませんが、次回会合の議事要旨・追加資料についても継続して注視することをお勧めします。

出典