本シリーズは、事業承継センター取締役・東條裕一が、経営者から聞いた言葉と、経営者として伝えたい言葉を書き留めた「勇気をもらう経営者の言葉」を、一言ずつコラムとして再構成したものです。志や覚悟、そして勇気を、後継者のみなさんと分かち合えればと思います。
「お前が決めろ!」が人を育てる
なぜ、この言葉なのか
後継者にとって、組織をまとめるというと、社員をどうまとめるか、どう指示を通すかという話に目が向きがちです。しかし、この言葉が伝えているのは、経営者がどう「決めさせるか」という、もう一段深いところにある組織づくりの話です。
決め方ひとつで、社員の中に責任感が宿るかどうかが変わってきます。後継者として組織を率いる立場になったとき、この違いを意識できているかどうかは、日々の意思決定の質にそのまま表れます。日常の小さな相談ごとの一つひとつが、実は社員を育てる機会にもなっているのです。
「お前らが決めろ」との違い
私は、「お前が決めろ」と「お前らが決めろ」には、大きな違いがあると考えています。「お前らが決めろ」だと、みんなで話し合って、みんなで決める形になります。一見、民主的で良さそうに見えますが、決めた事柄に対しても、実行した成果に対しても、一人ひとりに責任感が宿りにくくなります。責任はみんなにある、ということは、実質的に誰の責任でもなくなってしまうということです。
一方で、「お前が決めろ」と言うと、様子が変わります。みんなで話し合っても、最後は自分が決めなければならないというプレッシャーがかかり、責任感が生まれて、真剣に考えるようになるのです。このプロセスこそが、人を育てます。誰かに決めてもらうのを待つ姿勢と、自分が決めるという姿勢とでは、同じ議論をしていても、そこに向き合う真剣さがまるで違ってきます。
決めさせる側の覚悟
ただし、忘れてはならないことがあります。決めさせたのは経営者であり、何があっても最終的な責任は経営者がとらなければならない、ということです。社員に決めさせるからといって、経営者が責任から逃れてよいわけではありません。
そこをきちんと担保したうえで、社員が責任をもって判断する機会をつくってあげること。それが、人を育てるということだと私は考えています。最後の責任は自分が引き受けるという経営者の姿勢があってはじめて、社員は安心して「決める」経験を積むことができるのです。
後継者のあなたへ
後継者として組織をまとめる立場に立つと、つい「みんなで決めよう」という進め方に安心感を覚えることがあるかもしれません。全員の合意を取り付ければ、波風も立たず、進めやすいように感じられるからです。しかし、それだけでは、社員の中に責任感は育ちません。
最終的な責任は自分が引き受ける。その覚悟を持ったうえで、あなたは今、部下に「お前が決めろ」と言えているでしょうか。
本記事は、事業承継センター取締役・東條裕一の原稿「勇気をもらう経営者の言葉」をもとに構成しています。